「あのレンガの外壁のマンションあるじゃん?」 「うん」 「あの4階と5階の間にさ、よく見るとピンクのレンガが一個あるじゃん?」 「え、どこ?」 「よく見て。真ん中の少し右」 「ああ、あれかなあ。あるね。ピンクと言うか、色が薄いと言うか」 「この前、夜中にさ、ここ通りかかった時にたまたまあのビル見上げたらさ。そしたらさ、あのピンクのレンガがピンクのネズミになって壁を走り回りだしたの!」 「え?」 「え?」 「大丈夫?」 「何が?」 「何がというか、ネズミ? ピンク? 酔ってたの?」 「え? あたし酒飲めないし」 「寝ぼけてた?」 「いやまあいいから聞いて。それでそのネズミがこっちに走ってきて横断歩道の真ん中で止まるわけ。それで小さい目でこっちを見上げて、私は上杉謙信の生まれ変わりである、て言うわけよ」 「上杉謙信なら『ワタシ』じゃなくて『拙者』じゃない?」 「そうだったかも。アタクシだったかな? まあそれはいいんだけど、シバタはどこだって聞いてきたの。こっちもてんぱってたからさあ、思わずあんたんちのこと教えちゃったわけ」 「俺、嶋田だけど」 「そうそうだからみんなに悪いと思ったんだけど。それでさあ、ネズミから電話かかってきてない?」 「うん。たぶん」 「そっかあ。なんか悪いことしたかなあ」